近年,コモディティなハードウェアの性能向上と低価格化により,
大規模科学技術計算やデータマイニング処理等をPCクラスタにおいて実行することが一般的になった.
一方,IPネットワークを用いたストレージ統合技術であるIP-SANにより構築されたクラスタは,
効率的なディスク資源の使用,ストレージの導入・管理コストの削減を可能にする.
IP-SANを使用したPCクラスタでは、通常,並列計算を行うフロントエンドのLANと
ストレージアクセスを行うバックエンドのIP-SANが分離したネットワーク構成になっている.
そこで本稿では,ネットワークが分離していることによる運用管理負荷を削減することを目的として、
双方のネットワークを統合したIP-SAN統合型PCクラスタを実現した.
また,ネットワーク統合により,並列分散処理を実行した際に性能が劣化する可能性があるため,
I/O処理を伴う並列ベンチマークを使用して性能評価を行い,実行結果を考察した.
近年のデータ量の急増に伴い,
分散されたストレージを統合してデータを効率的に管理するSANが企業や組織などで多く使用されるようになってきた.
現在では次世代のSANとして,TCP/IPをベースにしたIP-SANが提案され,
Ethernetなどを用いて構築されるようになり,徐々に普及しつつある.
IP-SANの登場により,専用のハードウェアを使用した従来のFC-SANと比較して,
ストレージ管理コストの大幅な削減と大規模広域SANの実現が可能になった.
IP-SANで使用される技術として,iSCSIプロトコルが2003年IETFより承認され,
注目を集めている.iSCSIを用いてストレージにアクセスする際には,
オープンなネットワークを介することが多いため,安全に通信を行うことが重要であるが,
セキュリティ対策についてはまだ完全に確立されておらず,データの暗号化による通信性能の低下が懸念されている.
さらに,既存の暗号化通信方式であるIPsecは下位のIP層で逐次的な暗号化処理を行うため,
大規模広域SANにおいては効率的な暗号化を行うことができない.
そこで本研究では,IPsecに代わり,
暗号化を効率的に行う暗号処理最適化ミドルウェアを提案,実装し,高遅延環境において評価を行った.
その結果,
提案システムは高遅延環境においてIPsecより高い性能を示し,非常に有効であることがわかった.